女にこじれる前にPCキーボードでこじれていた

 大学の頃「PCキーボード沼」という奇病に冒されていた。

 

 およそライターの真似事をしていたのだが、そのとき「良いキーボードにすれば効率が上がるのでは?」と思い立ったのがきっかけで完治までに結局30台近くコレクションするほど陥ってしまった。僕のキーパンチャーとしての歴史は若干特殊で、中学時代は新聞部に在籍していたのだが、そこにあったワープロ(パソコンのソフトではなく、専門機である)で原稿を書いていた。「ホームポジション」を教えてくれる親切な先輩も、打ち方の書籍も、もちろんインターネットもなかったので、キーに印字された文字を独学で打てるようになる頃には立派な我流「かな入力」タイパーになっていた。

 

 その後、大学に入ると、変な先輩の影響で「そんな、かな文字入力を打つくらいなら、親指シフトにしたら、もっと捗るぞ」といわれ、そっちに移行した。「親指シフト」というのは基本的には「かな文字」入力なのだが、スペースバーの下にシフトキーをあてることで、親指でシフトを押しながら、別の指で小さな「つ」や「い」が打ちやすくなるという、今や一部を除いて、ほぽ絶滅した伝説の入力方法である。お、今のなんか厨二病っぽいな。いいぞ。

 そんなわけで僕のキーボードの使い方は「かな文字」→「親指シフト」→「ローマ字入力」という、ちょっとユニークな変遷を辿ってきているが、わりと今でも全部の方法で打てる。会社にある共用機のパソコンを、古いおっさんが、たまに「かな入力」に切り替えたままにして、その後、若い子から「ちょっと~○○さん~直しておいてくださいよ~」と文句を言われる弊社の日常があるのだが、僕はどちらでも何食わぬ顔でそのまま作業してしまう。ついでに、おっさん→僕→若い子の順番になると「僕が文句を言われる」という二次被害が発生しています。弊社~。

 

 まあそんな余談はどうでもいいとして、親指シフト経験あるあるなんだけど、超キーボードに困ることになる。本来であればスペースバーの下に、シフトキーがついてる特殊なキーボードと、かつATOKみたいな専用の入力ソフトが必要になるのだが、これを広めようとした富士通(というか富士通しか流行らせようとしてなかった)が2000年を数年過ぎた頃から、やる気を失っており、代わりにPCおたくの有志が作ったフリーのソフトで、スペースバーをシフトに割り当てるなどして、細々と延命してる有様だ。

 つまり、ほとんどの場合において、既存のキーボードのスペースバーをシフトに代用するわけだが、実際これで打とうとすると「スペースバーに常に両の親指がかかってるポジション」が理想となるし、現に専用キーボードの親指シフトキーは、通常のスペースバーより高めに配置されている。

 

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 にもかかわらず、市販のものでは、スペースバーの位置が、ちゃんとセンタリングされていないことが多い。本来「V」「B」「N」の真下あたりにあるべきなのだが、たまにズレて配置されているやつ(だいたい安物)があって、僕が最初に持っていたやつもそうだった。これだと右シフトが非常にやりづらい。そういう親指シフト目的から派生したキーボード探しだったんだけど、その後、あれこれ細かいことが気になりだして、いろいろ買ってみて試すという病気がはじまった。

 ちなみに、ほとんどの例外を除いて、現在では普通のローマ字でしか打ってない。いろんな場所でパソコンを使うのと、仕事で英語を使う機会が圧倒的に多いことを考えると、いちいち、かな入力ヘスイッチするほうがめんどい。

 

 親指シフトや、かな文字入力で良く言われるメリットとして「頭のなかで、ローマ字に変換する脳内メモリが必要なくなるので、思考がクリアになる」とか「文字を打つ量が半分に減るから高速打鍵できる」など一部の信者が叫んだりしますが、そんなこともないですよと自称バイリンガルタイパーとしては思う。前者はちょっと体感ありますけど。結局、脳内メモリも、高速打鍵も、今の文章を打ってるあいだに、次の文章を考えてる時間が必要になるので、ローマ字入力で充分と思いますし、頭の回転が速い人、考えたことをそのまま文章に完成できる人ならともかく、普通は推敲しながら打つものなので、そんな早くなる必要もないということを「タイピングオブザデッド」で最高難度をクリアしたときに思いました(あれは難しくなってくると、ネタ文で笑わせてミスを誘う仕組みが本当にひどい)。

 

 それに親指シフトや高速打鍵が、思考のクリアや、文章を生産できる、という論理が正義であれば、たとえば耳の聞こえない人用に、テレビのデータ放送の字幕を、常にリアルタイムで打ってる仕事の人がいますけど、あの人たちが使ってる親指シフト以上に特殊な業務用キーボードを使う人や、そういう人たちの中から小説家が生まれてこないのは変だなと思うんですよね。やっぱり両者は別の話なんだと思う。

 

 本当は「俺のキーボードコレクション」を紹介するつもりだったのに入力の話だけで終わってしまった。なんだこれ。。。