行列のできるラーメン屋が美味しくない理由

 自分が年間で食べたラーメンは、今まで最高350杯、去年は約150杯なのだが、これは「新店ないしは新メニュー」での数え方であって、それ以外にも行った店に「定点観測」と称して、再訪して同じものを食べに行く。その理由は、もちろん気に入ったからに他ならないんだけど最初、マニア界隈で評判だった店が、次に一般層に知られ、それが行列を作るようになり、その頃に行くとガッカリすることがある。

 全てというわけではないが「うまい」と言われていた店が「味が落ちる」ということは結構ある。

  ただ事前に一応、断っておきたいのは「うまい」「まずい」というのは結局、主観の問題でしかない、ということについては、僕も同感だから明確に「味が落ちる」という表現は厳密には不適当な気がするんだけど、それでも「行列を作った頃の味」と「今の味」が同じではないこと自体は当然よくある。

 でも最初から「今の味」だったら果たして行列を作れただろうか、とも。

 にも関わらず行列だけ、評判だけ、グルメサイトでの評価だけが、高い平行線を維持していくのは、おそらく店としては成功といえると思うし、それ自体は一向に文句をつける気はないんだけど、あくまで一消費者として「こういう傾向あるな~」ということを列挙してみたい。

 

■ 店主が厨房に立たなくなる

 理由は色々あって、一番代表的なのは規模拡大。たとえば「支店を作って、そっちが安定するまで。かかりきりになる」「新しい素材調達のために社員(弟子)に店を任せる」といったところだけど、支店が増えたりすると、もとの店主は職人ではなく経営者側になっていき、その頃には、自分が厨房には立たなくなる。もちろん基本的には他人が作っても同じレシピで作っているんだろうけど、どうしても調理人によって味も違ってくることは多い。

 そうさせないためには「弟子を(主人と同じくらいの感覚まで)鍛え上げる」または「セントラルキッチン方式(スープを一箇所で作って各店に運ぶ)にする」ぐらいしかないんだろうけど、前者は(育成に)時間がかかるし、後者は、お金がかかる。いずれにせよ「店主が管理にパワーをとられて、厨房から離れていく」懸念は存在するんだけど。

 

■ 麺が変わる

 よくあるのが「自家製麺にしました」系の売り文句で、知らない人が見ると「麺にもこだわってます!もっと美味しくなりました!」みたいなことを読み取りがちだし、それもあるんだろうが、他としてコスト面の理由も結構おおきい。

 中華麺も、基本的には、かん水と小麦粉を混ぜただけのものなので(おまえ製麺所に怒られるぞ)、製麺機の導入、初期の粉選び、配合の調整などに時間とお金がかかるが、セッティングがバチッと決まれば、最終的には買うよりも安くすむ(らしい)。後にも書くが、昨今のラーメンはスープに原価がかかりすぎるので、こっちでバランスを取れる。

 もちろんラーメン屋の中の人も生活がかかっているので「卸した麺より良くない」なんて言われないよう頑張ってることは百も承知なのだが、個人的には「製麺したやつの頃が好きだったな」と思うことはよくある。このへんは相性もあると思うけど。

 たとえば、二郎インスパイアの名店「千里眼」では一時期、自家製麺にしたと謳っていたにも関わらず、いつからか、もとの浅草開化楼の極太麺に戻していたので、そういう「出戻り」の例もある。

 ただ「製麺所の麺も、ずっと同じ」というわけではなく開化楼も食べた感じでは、ちょっとずつ変わってるような気がする。記憶違いじゃなければ、数年前だと、もっとゴワッとして、ウェーブがついていたのになって思いながら食べてる。

 

■ 「ブラッシュアップ」と称して味が変わる

 新進気鋭みたいな店に多いのだが、よくカエシに使う醤油とか、酒、調味料、スープに使う節を変えるなど。

 たいてい「よりよいものを!」と努力する現れなので評判を維持してる店だと、そんなに裏切られる例はまずないんだけど、数年ぶりに再訪すると何段階かのプラッシュアップを施された後らしく、ぜんぜん別物と化して驚かされる例がある。

 特に若い店主だと味の変化が激しく、短い間にめまぐるしく何度も変わって「俺のラーメンは進化している(キリッ」とか言うけど、こっちは「いつ落ち着くんだよ」って逆に安心して行けないという。

 そういうのを楽しむ人もいるかもだけど、あんまりにも変わると個人的には安定感ないなとも思うし、いいとか悪いとかじやなくて、そういう意味だと既に「行列を作った頃の味」ではなくなってるなとは思う。

「うまきゃいいだろ!」と言われればそうなんだけど、その試行錯誤の結果、下ブレする例もたまにあるということで。

 

■ 具材が変わる

 これはおいしくなかった決定的な理由にはならないけど一応あげる。一番多いのはチャーシュー。弊社は細かいことまで知らんのだが、豚肉は結構、価格相場が良く変わるらしく、なかなか安定供給しにくい素材らしい。雑誌で読んだ情報だが「いい肉屋を見つけることも、ラーメン屋の腕の見せ所」のようだ。

 たしかに前はバラ肉だったのに、再訪したらウデ肉だったり、肩ロースになってたりする店は多い。

 部位が変わることもさりとて、劣化という意味では、手間のかかる巻き豚をやめる店もあって、すごい萎える。巻き豚をやめた店で評価が上がった店が僕の中にないので。

 

■ 素材のグレードをコッソリ落とす

 たとえば「あの有名な〇〇鶏を使ってます」と当初、打ち出してきたのに、店が売れてくると、ひそかに普通の鶏に差し替えてる等。いい素材に変えたときなんかは、Twitterで告知したりして大半の客は「別にうまくなりゃ中の素材なんてどうでもいいよ」って感じなのに、やめるときは何も言わないんだよな、ああいうのって。

 たいてい「他の素材の価格高騰の波に押しやられてしまった」という悲しい事故によって起こるものだが、マニアとして食べ比べてみると「あ~やっぱり(前つかってた素材は)良かったんだな」と思うし、この例でいうと鶏白湯スープで、鶏を変えるようなことをやられると素人レベルでもわかるぐらい明確に味が落ちる。

 でも今までのグルメサイトの高評価のおかげで、お客さんは来続けるというね。

 この場合、こだわりの強い店となると(ラーメンの)価格を上げるなどして、品質の維持を計ったりするけど、客側としては「ラーメン一杯800円、いや750円が限界だなぁ」という人が沢山いるし、そのへんの価格か味かの、どっちを取るべきなのかっていう匙加減は、経営者側にとっては難しいんだろうなとは思う。そりゃ高い材料を使えば、うまいに決まってるからね。

 特に昨今のラーメンは良い素材を使ってるわりには、上の価格内で抑える制約が強いので、原価率は高くなってて困りどころではある。某店なんて1500円とかいうアホみたいな強気ラーメン出して一瞬話題になって雑誌に載ったりしたけど、あっという間に900円に落ちてたから、やっぱり持たないんだろう。

 

■ 会社化する・海外に行き出す

 店主個人の手から離れると、味が変わってくるので、どうクオリティコントロールするかという意味では前段の「厨房に立たなくなる」と同じ。

 昨今、有名ラーメン屋が海外出店する例が後を絶たないが、あれは日本のラーメンが世界的にウケることを知った海外の投資家が、その店主に話を持ち掛けてるのと、店主側の「俺の味が世界に」という野心が合致してるからなんですね。

 そういう大規模化について必ずしもダメっていうことはないんだけど、このへんになると個人の采配を超えてくるので「一杯の味をどう上手くするか」というより「味の安定化」とか考えになってくる。

 あと同じ味の支店をいたずらに増やしすぎると仮に安定に成功したとしても「飽きられる」という弱点も内包する。最近は一店舗経営でも常連を放さないように限定メニュー連発してるくらい気を利かすのが普通になってきてるので、多店舗経営となるとなおさらだ。だから「けいすけ」「庄の」みたいに支店ごとに、いっそ全部、別コンセプトにしちゃう、という方法がとられる。これなら名前のブランドだけはそのままで、違う味で勝負できる。おまけに、その支店が仮に不評で終わったとしても、本店のブランドや味は傷つかない。

 こういうの、おそらく天下一品ぐらい突き抜ければ問題ないんだろうけど。

 

 これを書いたのは既存のラーメン屋を乏したいわけではなかった。

 確かに「下がってるかも」という点について書いたけど、それは味のうまさを維持するのは大変なんだぞという裏事情のほうが、どっちかというと重要だと思ってる。

 そして、それは店側の人が努力する限り「上がってるかも」という別の可能性も、もちろんあるということ。

 ただし、よしんば「美味しい味」を勤めて食べたいのであれば日ごろからアンテナを高くしておいた方が「美味しいときに食べられる」といったことは、僕が食べ歩き経験で得た教訓です。

 

 という締めの言葉として。